ACe建設業界
2011年6月号 【ACe建設業界】
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目次
ACe2011年6月号>現場発見
 

[現場発見]

既存技術を応用し、世界一の高さに挑む
業平橋押上地区開発事業(新タワー建設工事)
東京スカイツリー®

 
 
 

2011年3月18日、
ついに最高高さ634mに到達した東京スカイツリー。
現在はタワーの頂上に配置されたゲイン塔を固定する作業と、
第一、第二展望台の内装工事が行われている。
現場には現在800人程度の作業員がいるという。
世界一のタワーを建てている
大林組の田渕成明作業所長に取材した。



高さへの恐怖心、自然との戦い

ゲイン塔の組立て作業は事前に三次元CADによるシミュレーションで計画を立て、ミリ単位の精度管理で進めている。最大重量約30トンもの巨大な鉄骨が、寸分の狂いもなく取り付けられている。

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タワーの建設が進むにつれて作業環境も徐々に高くなっていくが、恐怖はないのだろうか。「高さへの恐怖心を軽減するためには、慣れというのが重要です。最初から最後まで、全ての工事を同じ作業員で行うことにより、作業環境の変化や高さに適応できるようにしています」と田渕所長はいう。また、「全員が、世界一の建物をつくっているという誇りを持ってやっています」とも語ってくれた。だからこそ、絶対に事故は起こさないという気持ちをもって各自が作業に取り組んでいるそうだ。小さいことでも、高所では大事故につながる。そのため携帯電話や筆記用具に至るまで全ての携帯品にはストラップをつけて落とさないようにするなど、細かな配慮が徹底されている。同時に現場では気象モニタリングシステムを採用し、上空にいくに従い強くなる風や積乱雲の発生など気象の予知を怠らない。地上とタワーの上部とでは、気温も五度程度違うという。そうした気象を計画段階から予測し、現場の稼働率や作業員の安全確保を考慮しつつ工期の厳守に力を注いでいる。

計画概要

東京スカイツリー®

所在地:東京都墨田区押上一丁目
敷地面積:約36,900m2(但しタワー+東西街区)
高さ:634m
施設内容:展望施設(第1展望台350m/
        第2展望台450m)
構造:鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造、
    鉄筋コンクリート造
基礎工法:場所打杭、地中連続壁杭
事業主体:東武鉄道株式会社・
       東武タワースカイツリー株式会社
設計・監理者:株式会社日建設計
施工者:株式会社大林組

複合街区施設概要

所在地:東京都墨田区押上一丁目
敷地面積:約36,900m2
施設規模
(建築面積)約31,600m2(タワー+街区)
(延床面積)約230,000m2(タワー部分含む)
(建物規模)【東街区】地上31階・地下3階
        【西街区】地上7階・地下2階
(駐車場台数) 約1,000台
建築主:東武鉄道株式会社
施工者:【東街区】大林・株木・東武建設
           共同企業体
      【西街区】大成・東武谷内田建設
           共同企業体


現場でのコミュニケーションツール

東京スカイツリー立面図

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  東京スカイツリーの塔体鉄骨は、地面から空に向かって緩やかなカーブを描いている。その美しいカーブをつくり出すためには、設計者と施工者など立場の違う人達が、問題点を共有し、議論する必要があった。

 代表的な例は、様々な角度で繋いでいる各部材の接点である。その部材は全部で2万5千ピースもあり、一つとして同じ形の接合部がない。その時に活躍したのが、三次元CADだった。三次元CADは立体的に部材の形状や部材同士の接する角度などを表現できる。これにより全ての接合部を、一つ一つ立体的にあらゆる角度から検証することができた。このように美しいカーブの構造は、細かい接合部とそれを共有するために使われたコンピューター技術によってつくり出されている。

 それでもイメージが共有できない場合は、100分の一や50分の一の模型をたくさんつくる。田渕所長は「作業する人達が全体のイメージを共有するためには、なくてはならない存在であった」という。世界一のタワーを建設するにあたって、その苦労と努力が垣間見える。

今までに培ってきた様々な技術を結集

ナックル・ウォールの概念図

  世界一の建物を支える基礎には、連続地中壁杭「ナックル・ウォール」を採用している。通常基礎杭といえば柱状だが、これは壁のような形状をしている。さらに先端部分に付けた節のような突起がスパイクのように地面にくい込むことで634メートルのタワーを少ない本数の杭で支えることに成功した。外部では、タワーが高くなるにつれてタワークレーンでの揚重に、「スカイジャスター」を採用し、風の強い空中で吊荷の回転を制御した。これにより高所の風の中でも作業者が安全かつ効率よく鉄骨部材などを組み立てることが可能となった。また、地上デジタル放送用のアンテナが設置されるゲイン塔は500メートルを超える位置にある。これを構築するために採用された「リフトアップ工法」は、シャフト内空洞部の地上部でゲイン塔の組み立てを行い、その後高さ634メートルまで引き上げる。タワー本体と並行した作業を可能にし、工期短縮と作業員の安全、品質の確保を実現した。現在は、「スリップフォーム工法」により、シャフト内空洞部において耐震の要ともなる外径約8メートル、高さ375メートルの心柱(しんばしら)をシステマチックに短期間で構築している。

 ここで紹介したいくつかの工法は、実はスカイツリーのために新しく開発されたものではない。大林組が今までに培ってきた様々な技術を結集し応用することで実現されている。

現場へのおもい

安全かつ効率良く作業を行うという観点から、現場ではクレーンオペレーターや鳶職などの作業員と綿密な打合せのもと作業を行っている。

  田渕所長は、大林組で今までにも重要なプロジェクトの現場を担当してきた人物だ。代表的な現場は、大林組本社の入る品川インターシティ、他にも200m級の超高層建築物の経験を持つ。そんな田渕所長がこの工事に配属が決まった時、最初に考えたことは敷地の周辺環境だった。押上という下町のなか、また近くに電車が通る場所に高さ634mのタワーを建設することは、今まで以上に安全性が求められた。しかし、そうした逆境がモノづくりの精神に火をつける。「困難であればあるほど何とかしようと思い、その反面失敗は許されないという気持ちになった」という。現在は、作業員全員で週に一度、周辺のごみ拾いを行ったり、二カ月に一回、住民との連絡会に参加するなどして、地域住民とのコミュニケーションを図り、安全性の向上に努めている。

  作業所長といえば、全てを取りまとめる〝現場の長〟であるが、田渕所長の話からは、一人の技術屋としての自信とプライドが垣間見える。「難しい工事ほど、苦労が多いですが、その分乗り越える喜びも大きいです」と最後に力強く語ってくれた。




Q.あなたがこの現場で発見したことは何ですか?

新タワー建設工事事務所
作業所長 田渕成明

A. この現場を通じて、英知を結集し、試行錯誤を繰り返すことで、あらゆる可能性が広がっていくことを感じました。一人の力ではできないことでも、設計者や施工者など、それぞれの立場の人達が様々な工夫を重ね、確信をもって先に進めていくことで、乗り越えられる。日本の建設技術はすごいと感じましたし、不可能はないと感じました。

  この現場の特権は、常に一番上へ登れることだと思います。冬場は特に見晴らしがよく、天気が良ければ、富士山も見えます。また房総半島や三浦半島まで見渡すことができます。この景色を見るたびに、世界一高い自立式電波塔をつくっていることを実感します。同時に、東京スカイツリーという夢のあるプロジェクトに関われたことを誇りに思います。


 
   
 
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