令和の健人

新時代「令和」を担う技能者。
「令和の建人」は建設業のなかで重要な技能を誇り、その修練に努める次世代の人々を追う企画です。
多くの技能の中には受け継がれてきた人の想いが詰まっています。それらを掘り下げ、日々の仕事を記録すること。これらがきっと建設業にひとすじの光となり、新時代への道筋を照らすと信じて。
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第22回

「筋」を通して、内から支える

内村元樹(うちむら・もとき)さん

鉄筋工
工場で加工された鉄筋を、現場で組み立てることで、鉄筋コンクリートの骨組みをつくる。それが鉄筋工の仕事です。様々な構造物に使用されるコンクリートは圧縮に強い反面、ひっぱる力に弱いという弱点を持ちます。これを補うために内部に鉄筋を格子状に組み立て、コンクリートが破断した場合でも、構造物の安全が確保される構造となっています。
このように一見コンクリートしか見えない構造物にも、ほとんどの場合鉄筋が内部に存在し、構造物の強度を高めているのです。この重要な鉄筋部の組み立て作業をするのが鉄筋工であり、ダムやトンネルといった、生活になくてはならないインフラ工事からオフィスビルやマンションなどの建築工事まで幅広く活躍している工種です。構造物が完成するとその内側に姿を隠してしまいますが、なくてはならない“支え”である鉄筋を扱う鉄筋工は、正に社会の縁の下の力持ちといえる存在です。

高校を卒業後に単身アメリカへ

内村元樹(うちむら・もとき)さんは、東京都出身の26歳。インフラ工事をはじめとした土木工事を主業とする㈱内村組に勤める鉄筋工だ。だがその経緯は少々特殊かもしれない。
内村さんに、鉄筋工として従事するまでの経緯を伺った。
「『内村組』は父が社長を務める会社なので、跡を継ぐことは自然な流れでした。でも、若いうちにやりたいことをやろうと思い、高校卒業後はアメリカに留学しました」

技能者としては異色の経歴ともいえるが、アメリカでの留学は今どのように生かされているのだろうか。
「アメリカの大学では経済学を学んでいました。今のところ直接的に鉄筋工の仕事に還元されている感じはありませんが、英語が話せるので外国人技能実習生とコミュニケーションが取りやすいのは助かりますね」

イメージアメリカでは、建設関係の日雇いのアルバイトにも挑戦。26歳にして様々な経験を積んでいる。
「いつかアメリカでの経験を生かした仕事をしてみたいです」

カラダとアタマをフルに使って

現在、内村さんが従事するのは高速道路のトンネル工事の現場。高速道路の現場では、特に太径の鉄筋が多く用いられる。また、今回のようなトンネル内での作業ではスペースも限られるため大変なことも多い。時には、図面上で決められた本数を組み込もうとしても、なかなか収まらない(鉄筋どうしが当たって入らない)ことも珍しくない。鉄筋工というと重い鉄筋を担いで運び、組み立て、そして何カ所も結束するということで、肉体労働のイメージも強いが、現場での臨機応変な対応も求められるという。

「もちろん力仕事も多いのですが、計算能力や先を読む力も非常に重要だと思います。ただ愚直に資材を運んで、組んでいくというやり方だと上手くいかないことも多いですからね。自分も入ってすぐの頃は失敗もたくさんしましたが、その経験を基に、今は見通しを立てて効率的に作業ができるようになりました」

作業手順を変え、時には構造図にはない鉄筋を入れるといった経験で培った「知恵」が、技術の向上につながると内村さんは語ってくれた。

イメージトンネル内での結束作業。 複雑に組み上がった鉄筋が見て取れる。
イメージ折尺(折り畳み式の物差し)を使用し、鉄筋の間隔を調べる内村さん。
「品質に関わることなのでチェックはこまめに行います。
早めに異常がわかれば、その後の作業に大きく支障をきたすことも少なくなります」

生活を支える「骨組み」をつくる

鉄筋コンクリート造の構造物になくてはならない「骨組み」となる鉄筋。太く、重量のある鉄筋を使用することの多い土木工事では、組み上がった鉄筋の大きさは相当なものになる。内村さんが勤務しているトンネル工事の現場では、どのように作業を行っているのだろうか。

「この現場ではあらかじめ地組みヤード(※)がトンネルの外に設けられているので、一部の部材はそこである程度組み立ててから、実際に使用するトンネル内にクレーンとトラックを使って運搬しています。このやり方であれば広いスペースで組み立てを行うことができ、組み立てたものを地組みヤードにストックしておけるので、現場で作業する手間も省け、工期の短縮につながります」
広いスペースで作業を行うことで、安全の面でも大きなメリットがあると、内村さんは地組みヤードの重要性を強調する。

※地組みヤード・・・鉄筋を組み立てるための現場にある広いスペース

イメージ地組みヤードの全景。巨大な鉄筋がいくつも並べられている。
組み上がった鉄筋は奥に見える門型クレーンを使い、トラックに運び込む。
イメージクレーンを操作する内村さん。
「かなりの重さがあるので慎重に扱っています。安全あってこその作業ですからね」

未来の社会を支える若手

建設業界の課題の一つである若手技能者不足。内村組においてもそれは同様だという。
「入職者が少ないというのは事実です。ただ入ってきてくれた時には、丁寧に対応しています。今は昔と時代が違うので、見て覚えるという形ではなくしっかり言葉で伝えるように心掛けています」

内村さんは育成について、次のようにも語ってくれた。
「性格などを見極めて指導しています。また、どんなことでも1から10まで教えきるのではなく、少しでも自分で考えてもらうように『教えきらない』ことも大事にしています。この考える力がゆくゆくは経験となって自分を助けることになりますから」

イメージ「作業中のコミュニケーションも大事にしています。
毎日のように会う仲間なのでちょっとした異変もすぐにわかりますし、事故を防ぐことにもつながると思います」
イメージ結束には、ハッカーと呼ばれる工具を用いる。鉄筋工には欠かせないものの一つだ。

日々の作業が後世に残る

この仕事でやりがいや達成感をどういった時に感じるのか聞いてみた。
「やっぱり自分の関わった現場が竣工した時ですね。僕たちの作業した鉄筋は、決して表には出てこないのですが、完成したものを見たり、実際にその場所を通ったりすると、社会を支えているという実感が湧きます。むしろ鉄筋が見えないからこそ強く感じるのかもしれません」

最後に、内村さんに今後の目標や展望を伺った。
「自分自身としては、難しい現場に挑戦してみたいです。経験を生かしてトライする喜びを感じたいですね。会社や業界としては、若い方にどんどん入ってきて欲しいです。建設業には様々な職種があるので、適材適所、きっと自分に合ったポジションを見つけられるはずです。また、海外に行ったからこそわかる日本の建設業の技術力の高さを維持し、進化させるためにも、未来を担う若者と一緒に仕事をしたいと思っています」

イメージ現場では鉄筋を担いで運ぶことも多い。
「コツをつかめば意外と簡単に持つことができるんです。鉄筋工らしい姿を見せられて嬉しいですね(笑)」
イメージ施工会社との打ち合わせも欠かせない。
現場での情報共有が安全で効率的な作業につながるという。