令和の健人

新時代「令和」を担う技能者。
「令和の建人」は建設業のなかで重要な技能を誇り、その修練に努める次世代の人々を追う企画です。
多くの技能の中には受け継がれてきた人の想いが詰まっています。それらを掘り下げ、日々の仕事を記録すること。これらがきっと建設業にひとすじの光となり、新時代への道筋を照らすと信じて。
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第12回

この光(アーク)の中にきっとある、私の未来

伊藤奈穂美さん

溶接工(鋼橋製作)
鋼板やH形鋼など鋼製の素材を溶接作業で組み立てて、部材をつくります。建築分野でも多く用いられますが、この工場では橋桁などに使う鋼構造物の部材を製作しており、一つひとつがかなり大きなサイズとなります。
溶接は、高電流・超高温で金属を溶かして部材同士を接合させる特殊な技能で、専門の資格が必要なほか、同じ箇所を同じ姿勢で何度も繰り返し作業する根気と集中力も求められます。

入社6年目、紅一点の女性溶接技能士

溶接工・伊藤奈穂美(いとう・なおみ)さんは、1996年に千葉県君津市で生まれた。同市内の県立高校普通科を卒業後、宮地エンジニアリング(株)の千葉工場に就職し、今年で6年目になる。

この仕事を目指したきっかけを聞くと、
「高校生の頃、夏休みに学校で工業系の技術講習会をやっていたんです」
いろいろな職業を体験し、卒業後の進路の一助となるように、という趣旨で開催された講習会では、熟練の技能者が学校に来て、バックホウやフォークリフトの操縦、そしてガス溶接・溶断などを教えてくれたという。
「その時はまだ卒業後の進路を決めていなかったんですが、いろいろとやってみたなかで、溶接が『これ、楽しいな』と。そして『仕事としてアリかもな』と思いました。体も動かせますし」

イメージ鋼橋製造業、しかも溶接工は女性の職業としてはあまり一般的とは言えないが、
「性格的に、しーんとした静かな部屋で仕事はできないなって(笑)」
イメージアーク(火花)を直接見ると目をやけどしてしまう。
また溶接中は「スパッタ」という高温の溶けた金属が飛び散るため、
写真のような服装が必須で「夏は汗だくになります」とのこと。

溶接にもいろいろあるが、もっとも使われるのは?

一口に「溶接」といっても、その方法は様々。
「一番よく使うのは、『炭酸ガスアーク溶接』。工場での溶接のほとんどはこれでやっています」

束ねたコイルを溶接機にセットしスイッチを入れると、溶接ワイヤが一定速度で自動供給されるので、これを溶加材(溶かして使用する接着剤)として使用する。また溶接部の酸化を防ぐため、空気を遮断するシールドガスには炭酸ガスを用いる。接合したい金属と溶接ワイヤを通電させ、その間に発生させた「アーク」と呼ばれる高温の火花でワイヤを溶かしながら、金属と金属を接合する工法が「炭酸ガスアーク溶接」である。能率的で広範囲を溶接できるため、幅広い分野で用いられているポピュラーな溶接法だ。

溶接自体の操作は比較的簡単だが、
「溶接ワイヤのコイルを作業する場所まで自分で運ぶんですが、これがけっこう重くて大変です」

イメージ鋼橋部材をクレーンで吊るための部品を取り付ける。
伊藤さんの背後にあるのが溶接ワイヤのコイル。
イメージコイルから供給されるワイヤを右手で操作して溶接する。
イメージ材料によっては20kgほどもある溶接ワイヤのコイル。
「手伝ってもらえることもありますが、いつもみんな忙しそうなので、大抵は自分で運びます」

もう一つの溶接「被覆アーク溶接」

「次に使うことが多いのが『被覆アーク溶接』です。右手に溶接棒を持って、溶かしながら溶接していきます。棒がだんだん短くなっていくので、ちょっと操作が難しいです」
別名「手溶接」。シンプルな設備で作業できるため、仮付けや補修など狭い範囲の溶接に向いている。

イメージ長さ30cmほどの溶接棒を右手に持ち、構える。
イメージ溶接箇所に沿って動かしながら、だんだん短くなる棒を押していくという複雑な操作が要求される。

「橋が気になる」

この工場で作っているのは「鋼橋部材」。
その名のとおり、橋。つまり土木分野で用いられる部材である。
「技術講習会で『溶接って面白そうだな』とは思いましたけど、溶接で何をつくっているのかは全然知りませんでした。ここに工場見学に来た時は、部材が大きくて驚きましたね」

この仕事をやるようになってから、気になることがある。
「鋼製の橋があったら、つい見ちゃいますね。ここの溶接、上手いなぁとか」

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イメージ建築鉄骨と比べても、その部材はひときわ巨大。
イメージ溶接には大電流を使うため、電流・電圧の管理も自分で行う。

まだまだ修行中

現在は鉄道の橋梁に使われる部材を製作中。JR発注の作業では、技能士の技量を測るための試験も行われるそうだ。 「ただでさえ難しい手棒(被覆アーク)溶接、しかも普段使わないし…。それをみんなが見ている前で行うので、緊張しました。なんとか合格はしましたけど」

入社6年目、手応えを感じる部分もあるのでは?
「大体一通りのことはできるようになったんですけど、周りの先輩たちに比べたらまだまだです。先輩が溶接したビード(溶接材が冷えて固まったもの)はきれいだし、欠陥もほとんど出ない。早く先輩たちに追いつきたいです」

イメージ技量試験に備え、日頃使う機会が少ない被覆アーク溶接の練習を行う。
イメージ自分の担当した溶接箇所を確認。
表面気泡などがあると「溶接欠陥」としてやり直さなければならないこともある。