受賞報告

第1回 土木賞

横浜北線鉄道(JR, 京急)交差部新設工事

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工事完了
所在地
神奈川県横浜市神奈川区子安台1丁目〜鶴見区岸谷1丁目
事業者
首都高速道路株式会社
横浜市
受託者
東日本旅客鉄道株式会社
設計者
ジェイアール東日本コンサルタンツ・日本交通技術設計共同企業体
施工者
鹿島・前田・京急建設共同企業体
関係者
株式会社横河ブリッジ
オリエンタル白石株式会社
宮地エンジニアリング株式会社
川田工業株式会社
株式会社ゼンテック
着工年月
2011年9月29日
竣工年月
2017年10月30日

受賞理由

横浜北線鉄道(JR、京急)交差部新設工事は、首都高速「横浜環状道路」の北東区間の市街化地域において、JR東日本線と京浜急行線、合わせて10線の線路と立体交差する延長300mの跨線道路橋を建設する工事である。橋梁は最大支間長105.6mの3~4径間連続鋼床版箱桁橋で、首都圏の重要路線の線路上空での曲線桁の送り出し架設や線路近接箇所でのケーソン基礎の施工など、きわめて難度の高い工事であり、施工中の鉄道輸送の安全確保のため、高度な技術力と厳密な管理が求められた。
桁は急曲線で長さ方向に幅が変化する不規則な形状をしており、前例のない送り出し架設となった。そのため、CIMによる事前施工シミュレーションの実施、新たな架設装置や管理・制御システムの開発、試験施工の実施など、万全の準備を行い、綿密な施工管理のもと、トラブルなく無事に短時間での架設を実現させた。
ケーソン基礎は、線路に近接した狭隘箇所での施工であったが、新たな補助工法の開発により不等沈下や急激な沈下を防いで鉄道の安全を確保するなど、難条件を克服して施工を完了させた。
また、本橋梁は市街化地域の線路上空に架設されるため、供用後の車両走行音対策や鉄道直上での維持管理に十分配慮した設計が行われ、施工中もさまざまな取り組みにより環境影響の低減が図られた。
本プロジェクトでは、厳しい施工環境の中、多様な関係者が計画段階から工事完了まで緊密に連携し、協働したことにより、過去に例を見ない技術的に高難度の工事を無事、かつ効率的に完成させた。十分な技術的な裏付けをもとに施工プロセスを改善し、第三者および施工者の安全確保と生産性向上、環境の維持を実現している点が高く評価され、日建連表彰土木賞に値するものと認められた。

プロジェクト概要

高速神奈川7号横浜北線の「鉄道交差部」は、JR東日本8線(横須賀線、東海道線、京浜東北線、高島貨物線)と京浜急行本線、合わせて10線の線路と立体交差する区間約300mの跨線道路である。これらの鉄道は、いずれも首都圏を代表する重要路線で、1日約2,000本の列車が通過するため、落橋はもちろん、ボルト、針金の1本も落とせない、細心の注意と厳重な管理が要求された。地形的な道路線形の制約や市街化が進んだ地域であるという周辺環境の制約により、橋は線路上空で、縦断勾配だけでなく、平面的に急曲線を描き、橋の幅員が長さ方向に変化する複雑な形状を有している。さらに7本の桁が密集しているため、きわめて高度な施工技術を要する難易度の高い工事であった。

企画・設計・施工のポイント

線路・国道上空での急曲線桁の架設技術の開発
本橋梁の基本的な架設計画としては、軌道内にベント*1を配置することができないため、送り出し架設*2と横取り架設*3を組み合わせた計画とした。橋梁は急曲線を有する鋼床版箱桁で、狭隘なヤードで架設するため、曲線送り出し架設や横取り桁の曲線縦取り・架設を行う必要があり、難易度が高い施工技術を必要とした。この対策として、「GPSリアルタイム位置把握システム」、「インバータ制御曲線速度管理システム」、「多点自動反力制御システム」などを開発・導入し、難条件を克服した。さらに橋梁が跨ぐ鉄道路線は、1日約2,000本が通過する首都圏京浜地区の大動脈で、ボルトひとつの落下も列車運行に影響を与えるため、あらゆる場面での耐震性の確保を前提に、さらに列車が走行していない時間帯の短時間架設技術を確立し、7つの橋梁の架設を完了させた。
*1 ベント:仮受構台(アーム状の鉄骨)のことで、橋梁の架設時に橋体などを支持する仮の支柱。
*2 送り出し架設:工場から輸送されてきた桁を架設現場の隣接地点で仮組みし、さらに手延機と呼ばれる架設用の仮桁を接続。そして、自走台車等の機材を用いて桁を送り出し、所定の位置に架け渡す工法。
*3 横取り架設:架設地点の側方で組み立てた橋体を最終位置へ横移動して据え付ける工法。

イメージ JR線上での送り出し架設状況
●曲線送出し架設ステップ図
イメージ ①桁材を工事用仮設構台の上で台車上に地組する。
イメージ ②地組した桁を道路線形に合わせて曲線で送出し、架設する。
イメージ ③同様に構台上で地組した桁を、先に架設した桁上を曲線で縦取りし、その前方に曲線で送出し架設する。
●横取り架設ステップ図
イメージ ①仮設構台上で地組した桁を、先に架設した桁上に縦取りする。
イメージ ②桁が所定の大きさになるまで地組、縦取りを繰り返し、架設する桁の地組を完了させる。
イメージ ③地組の完了した桁を、横取り用の仮設桁を利用して横取り架設する。
●桁架設の特徴

1.曲線送出し

イメージ 走行台車をインバーターで制御することにより、滑らかな曲線での送出しを実現します。

2.横取り架設

イメージ 架設を完了した桁上を縦取りしてから、横取りすることで、
架設箇所下方の安全性を向上させます。(桁の始終端が横取り桁上にあるので、安定しています。)

3.一括降下

イメージ 一括降下装置により、水平に送出した桁を所定の勾配に据付ます。
橋梁桁架設の施工方法 Method of constructing

線路に挟まれた狭隘箇所でのニューマチックケーソン基礎施工方法の確立
橋脚基礎のうち、線路に挟まれ、かつ線路に近接した幅10mしかない狭隘な作業ヤードで直径7mの基礎をニューマチックケーソン工法*4にて構築した。軌道影響を防止しながら、ケーソンの不等沈下や急激沈下対策として、先行削孔置換杭工法を開発・適用し効果を上げた。また、狭隘ヤードに対応する設備配置、掘削土の搬出方法の改善により、難条件を克服し、無事に施工を完了させた。
*4 ニューマチックケーソン工法:地上で下部に作業室を設けた鉄筋コンクリート製の函(ケーソン)を築造し、作業室に地下水圧に見合う圧縮空気を送り込み地下水を排除、ドライな環境で掘削・沈下を行い、構築物を設置する工法。

イメージ 狭隘部での施工状況
イメージ 営業線に挟まれた超狭隘ヤードでの施工
イメージ 先行削孔範囲側面
イメージ 先行削孔範囲平面
イメージ 橋梁基礎配置(平面)
イメージ 橋梁基礎配置(側面)
施工プロセスの特徴

架橋における事前施工シミュレーションの実施
桁架橋施工開始前・中の計測、施工コントロールシステムより限定された作業時間内にて正確な管理モニタリングを行い、各桁の架橋に反映させ効率化を大幅にアップさせた。

施工時における近隣民家と既存工場への対応
騒音等公害の防止のため、工事開始から工事完了まで継続的に近隣民家、既存工場と対話を継続し、要望に応じた効果的な公害防止対策を行い大きなトラブルなく工事を完了した。特に夜間作業が多いことから、民家まわりの仮設遮音壁の設置、騒音発生源の防音対策、低騒音工具の使用を行い、大きなトラブルなく完了した。

道路への落下物等の防止及び規制の縮小(道路利用者の利便・安全性確保)
道路上空作業が多いため、道路上空の仮設物は最小限となるように計画し、仮設物の点検を定期的かつ確実に行い、トラブルなく工事を完了した。架設方法を細部検証することで、桁架設時の通行止め回数を減らし、国道通行止めによる影響を最小限に抑制した。

首都圏大動脈として機能するJR線、京急線の安定輸送の確保(列車利用者の利便・安全性確保)
桁架設時の線路上空の仮設物は最小限になるように計画し、裏面吸音板取付時の仮設物の点検を定期的かつ確実に実施することで、落下物ゼロを達成し、列車の安定運行を確保した。

工事従事者の安全確保
延べ約13万人、136万時間の工事従事者が6年半にわたり施工に携わり、現場安全衛生管理体制の充実、各種取組みによる全工期無事故無災害を達成した。