受賞報告

第1回 土木賞

三種浜田風力発電所建設プロジェクト

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風車組み立て完了
所在地
秋田県山本郡三種町浜田字大森57-1、57-2、56-2
施設管理者
大林ウインドパワー三種株式会社
設計者
株式会社大林組
施工者
株式会社大林組
関係者
株式会社巴技研
着工年月
2016年6月29日
竣工年月
2017年10月31日

受賞理由

三種浜田風力発電建設工事は、秋田県三種町の海岸沿いに2MWの風力発電用風車3基(ローター直径92.5m、ローター中心までの高さ78.0m)をはじめとする発電設備を建設するものである。工事にあたっては、海岸保安林内に風車を設置するため、施工ヤード面積を極力縮小して、保安林伐採および敷地造成による自然の改変を必要最小限に抑えることが発注者から求められた。
従来工法では、1,200t級の超大型クレーンと200t級のクレーンを使用し、ハブとブレードを地上で地組みした後、相吊りで揚重するため、広大な施工ヤードが必要であった。また、風の影響で作業が中止になることが多く、工程遅延のリスクがあった。
「ウインドリフト工法」は、リフトアップ方式による風車組立工法で、塔体に沿ってエレベータのように上下する昇降ステージを利用し、まず、保安林上空のステージ上でハブとブレードを地組みした後、ステージを上昇させながら建て起こしていく、画期的な工法である。これまでのような超大型クレーンは使わずに相番の200t級のクレーンだけで架設可能となり、施工ヤード面積が大幅に縮小されて自然の改変を最小限にすることができ、建設費も低減できる。また、部材上昇時に風の影響を受け難いため、工程遅延のリスクを軽減できる。
近年注目、推奨されている再生可能エネルギーを利用した発電事業のひとつである風力発電事業においては、発電効率を高めるために風車の大型化が進んでいる。本工事は、斬新な発想による新工法を適用して風車組立の施工プロセスを改善し、自然環境の保全と生産性向上、施工者の安全確保、建設費の低減を実現している点が高く評価され、今後の風力発電事業の進展にも大いに貢献できる技術であることから、日建連表彰土木賞に値するものと認められた。

プロジェクト概要

秋田県三種町浜田地域に建設した、風力発電用風車3基をはじめとする発電設備工事である。工事にあたって、海岸保安林内に風車を設置するため、施工ヤード面積を極力縮小し、保安林伐採および敷地造成による自然の改変を必要最小限に抑えることが求められた。風車は発電容量2MW、ローター*1直径92.5m、ローター中心までの高さ78.0mの物を3基設置し、仮設工事として、道路を980m、風車組立ヤードとして1基につき2,500㎡造成し、基礎には径1,500mmの場所打ち杭を1基につき8本施工した。
*1 ローター:風を受け止める大きな羽(ブレード)を組み合わせたもの。

イメージ 施工ヤード
イメージ ローター地組全景
企画・設計・施工のポイント

新しい工法の採用
ウインドリフト工法は、塔体に沿ってエレベータのように上下する昇降ステージを利用した組み立て技術であり、ハブ*2とブレード*3部分を昇降ステージ上で接合し、上昇させながら建て起こしていく工法である。塔体や昇降ステージを採用することで、超大型クレーンが不要となり、地組時および建て起こし時の相番クレーンのみでよいことから、施工ヤード面積を大幅に縮小した。風の影響については、ハブとブレードを保安林上空(地上10m程度)であらかじめ水平に組み立て、建て起こしてリフトアップすることにより、安定してタワー上端まで移動できた。また、トラス構造の塔体は剛性が高く、超大型クレーンでの組み立てと比較しても、部材上昇時に風の影響を受け難く、工程遅延のリスクを軽減した。
*2 ハブ:ブレードの付け根をローター軸に連結する部分。
*3 ブレード:風車の羽部分。

イメージ 従来工法とウインドリフト工法の比較
イメージ ウインドリフト工法による風車組立手順
*4 ナセル:増幅器や発電機など、発電機の本体を収納し防水や防音する部分。

ローター建て起し装置の開発
ローターの建て起こし装置の開発では、3DCGアニメーションを用いて、ローターの挙動検討および、実大模型の実証試験を行った。
試験では、水平に組み立てたローターのブレード部分を建て起こす際に、門形フレームに干渉しないか、約80tの荷重に耐えられるかなど、新たに開発した建て起こし装置の機能を確認した。入念な事前準備により、トラブルもなく稼働することができた。

イメージ 実物大のハブを用いた建て起しの様子
イメージ 3D-CGアニメーションによる検討
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荷振れ対策
現地の風況を解析した結果、より安全に建て起こし作業を行うため、風による荷振れを抑える必要があった。昇降ステージ上の門形フレームを利用して、ブレードの根本をスリングベルトで固縛することで、荷振れを防止した。
超大型クレーンにより部材を揚重する従来工法では、タワー・ナセル取付時で9.5m/s以下、ローター取付時で5.5m/s以下で作業を中止しなければならなかったが、本プロジェクトでは、タワー・ナセル取付け時で13m/s、ローター取付時で8m/sでも荷振れを抑えることができ、工程を短縮できた。

イメージ 荷振れ防止対策
イメージ 発電所配置
施工プロセスの特徴

建設費の低減
ウインドリフト工法の採用により従来工法に比べ、施工ヤード面積を低減できたので、保安林の伐採から植栽までの造成工事量の縮減に伴い建設費を約10%低減できた。

自然環境の保全
従来工法では約3,600m2の施工ヤードが必要であったが、本工法では約2,500m2の施工ヤードで作業し、従来工法に比べて保安林伐採量を約30%削減、自然環境の保全に貢献した。

施工者の安全確保
門型フレームなどの装置本体から布製ベルトで風車部材を固縛する荷振れ対策により、突風などの影響を受けにくく、吊り荷作業における作業員の介錯が不要となるため転落リスクが低減され、安全性が向上した。

工程短縮・限定された期間内での確実な施工
超大型クレーンを使用する従来工法では、風の影響により作業を中止しなければならないが、ウインドリフト工法は、トラス構造の塔体で構成され剛性が高く、さらには装置本体から布製ベルトで風車部材を固縛する荷振れ対策により、風の影響を受け難い。本プロジェクトでは、作業を中止する頻度が減り、風車1基あたりの工程では、従来工法に比べて1日から2日短縮した。

新しい建設システム
発電効率のさらなる向上を図るために、今後、風車の大型化や高さ100mを超えるタワー風車が計画されているが、従来工法では部材の重量、揚程高さから対応が困難である。今回開発したウインドリフト工法は昇降ステージを上下させる方式なので、大型化、ハイタワー化した風車も安価で確実に組み立がて可能である。