受賞報告

第1回 土木賞

阿蘇大橋地区斜面防災対策工事

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緊急対策工事完了
所在地
熊本県阿蘇郡南阿蘇村大字立野
施設管理者
国土交通省九州地方整備局熊本復興事務所
設計者
株式会社熊谷組
施工者
株式会社熊谷組
関係者
国際航業株式会社
日本工営株式会社
八千代エンジニヤリング株式会社
着工年月
2016年5月2日
竣工年月
2017年11月20日

受賞理由

本工事は、2016年4月16日夜半に発生した熊本地震の本震により崩壊した南阿蘇村の阿蘇大橋地区斜面の緊急斜面対策に対するものである。被災の状況は長さ約700m、幅約200mにおよび、国道57号、JR豊肥本線、阿蘇大橋を押し流され、崩壊斜面の周辺には至る所に開口亀裂や段差が生じ、降雨や余震などによるさらなる崩壊が懸念された。 このような状況で緊急に防災対策工事を行う必要があるが、二次被害を防ぐためすべて無人化施工で行い、施工プロセスにおいては調査・設計・施工プロセスをデジタル化により一体化し、i-Constructionと連動させた緊急時の新たな事業マネジメントを実現した。これにより二次被害のない迅速な復旧工事を可能にした。 プロジェクトの特徴を見ていくと、第一は総合的なi-Constructionの導入である。3Dモデルを基礎として全工程で実現している。UAVなどによる測量により3D地形データの作成に始まり、設計時のシミュレーション、施工での利用で高精度の施工管理を実現している。管理面でもUAV測量により出来高管理・土砂移動などの管理が無人で可能になった。これが対策工事を効率よく迅速に推進する基盤となっている。 第二は無人化施工技術をネットワーク対応型に高度化している点である。雲仙普賢岳での施工経験をもとに事前に検討し、効率を重視するため無線LANで情報を集約して、1km離れた集中管理室からの無人化施工機械を操作することを実現し、狭い盛土上において多くの建設機械による同時施工を可能にした。 第三は調査・設計・施工プロセスの一体化による機動性確保である。発注者・設計者・施工者が一体となり、リアルタイムに情報を共有して、機動性の高い事業マネジメントを実現した。 以上のことから、緊急対策工事での高度な施工プロセス一体化により、安全かつ迅速に復旧工事が行われたことが評価され、日建連表彰土木賞に値するものと認められた。

プロジェクト概要

2016年4月16日に発生した熊本地震(本震)により阿蘇大橋地区で大規模な斜面崩壊が発生。崩壊長最大約700m、崩壊幅最大約200m、崩壊推定土砂量約50万㎥という規模におよび、国道57号、JR豊肥線、 国道325号阿蘇大橋を押し流す大災害となった。 本工事は直轄砂防災害関連緊急事業として、斜面上部に残存する不安定土砂(不安定ブロック)を除去し、崩壊斜面等から流出する土砂や落石等を捕捉する仮設の土留盛土工(上・下段)を築堤する工事である。余震や降雨等により不安定な土砂の流出や落石が懸念されたことから、人的被害を防止するために無人化施工が前提条件となった。

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企画・設計・施工のポイント

総合的なi-Construction*1の導入
現場に立ち入れない中で、調査・設計・施工の一連のプロセスで最新技術によるi-Constructionを総合的に取り入れることにより、安全を確保しつつ効率性を追求し、迅速な復旧対策を実施した。
まず、航空レーザー計測やUAV測量*2を駆使し崩壊地の3次元地形データを作成。これに基づき崩壊地の凹凸や斜面勾配を反映した土留盛土工の3次元モデルを作成し、落石シミュレーションを行うとともに、無人化施工による施工性を考慮した土留盛土工の最適な配置・形状の設計を行った。
施工は、無人化施工機械に位置情報・ICT施工データと3次元設計データを一元管理できるマシンガイダンス・マシンコントロールシステムを使用し、高精度の施工管理を実施した。
また、崩壊地上部の不安定エリアでは、UAVによる斜め空中写真測量を活用した地形・浮石状況の解析・評価により不安定土砂除去範囲を設定し、車載カメラを搭載した高所法面掘削機を無人化で施工するとともに、UAV写真測量より出来形・残存浮石の確認を行った。
さらに、降雨後の土砂移動(流出)は随時UAV計測・差分解析により確認し、設計・施工計画に反映させた。
*1 i-Construction:国土交通省が推奨する、建設現場に情報通信技術ICTを活用する取組み。
*2 UAV測量:UAV(Unmanned Aerial Vehicle :無人航空機)、いわゆるドローンを測量に活用する取組み。

イメージ i-Constructionの取り組み概要

無人化施工技術をネットワーク対応型に高度化
崩壊地内の限られたエリアに多数の無人化施工機械を集中投入して稼働させ、かつ安全な場所から遠隔操作を行うために、雲仙普賢岳等の施工実績をベースに改良を加え、無人化施工技術をネットワーク対応型に高度化した。 従来型の無人化施工では、無線環境の設定に時間を要する、無線局の切り替え対応が困難、無線相互の混信・干渉により稼働が不安定となる等の課題があった。このため、操作、映像、GNSS(衛星測位システム)等の施工データ全てをIP化(インターネットプロトコル化)して伝送することにより、多様な機器の接続や大容量高速伝送が容易に中継できるようにした。また、光ファイバーケーブルの使用により、安定して長距離からの遠隔操作が可能となった。 このようなシステムの高度化により、無人化機械の制御に加え、画像データやGNSS等の情報を集中管理することで、安定した操作環境を整えることができた。無人化施工機械には位置情報・ICT施工データと3次元設計データをコントロールボックス内で一元管理できるマシンガイダンスシステムおよびマシンコントロール(ブルドーザ排土板制御システム)を搭載し、開発した変換機によりすべての操作・設定を遠隔操作室側で行った。

イメージ ネットワーク対応型に高度化した無人化施工技術
イメージ マシンガイダンス
イメージ 事業マネジメント体制

調査・設計・施工プロセスの一体化
水を含めば直ちに泥濘化する特殊土(黒ボク、赤ボク)が分布する急斜面において、無人化施工により迅速に対策工事を実施するには、現場での施工性を踏まえ設計・施工に反映させることが重要であった。このため、調査・設計・施工のプロセスを一体化し、山体変動のリアルタイムな監視・観測を行いつつ、地質・地形・崩壊土砂・不安定エリアの設定・評価や無人化施工による施工方法、土留盛土工の設計・施工を一体的に取組み、迅速に復旧工事を計画・遂行した。 調査・設計・施工を同時並行で一体的に進めるうえで、受発注者一体の会議を毎週開催し、直面する課題や対応策について意思決定の場とした。多岐にわたる関係者がリアルタイムに情報を共有できることから、崩壊地特有の現場条件や観測状況を踏まえて、即時に対応を決定し、機動性のある体制として復旧事業の推進に大きく貢献した。 また、技術的に高度な内容は、有識者による「阿蘇大橋地区復旧技術検討会」(九州地方整備局)、「阿蘇大橋地区斜面防災対策施工委員会」(熊谷組)に諮り、妥当性を確認しつつ最良の対策を選定する等、機動性ある対応により実施した。

施工プロセスの特徴

復興支援、安全・安心の向上
熊本地震において国道57号、JR豊肥本線、国道325号阿蘇大橋等の重要インフラを崩壊させた社会的注目度の高い大規模被災地の復旧にあたり、受発注者が一体となり、多様な組織の連携により設計・施工を進める事業マネジメント体制を構築することで、人が立ち入ることができない困難な施工環境の中、安全かつ迅速な緊急対策を実施することができた。 被災した崩壊斜面上部に残る不安定土砂の崩落による二次災害リスクを早期に防止したことで、以降の恒久対策施工の基盤を作り、迅速な震災復興ならびに社会資本の安全・安心向上に大きく寄与した。

無人化施工による安全確保
余震や降雨等による更なる崩壊の危険性があったことから、第三者・施工者の安全を確保するため、崩壊地内での復旧作業は全て無人化施工により実施した。 従来の個別無線通信による無人化施工に対して、無線LANで情報を集約するネットワーク対応型とすることにより、以下のような安全かつ効率的な施工を実現した。
施工箇所から1km離れた場所に操作室を設置し、安全な施工環境を整えた。
最大14台の多くの無人化施工機械が崩壊地内で作業することを可能とした。

i-Construction
大規模な斜面崩壊地内の緊急対策工事で、崩壊地内に人が立ち入れない状況において、迅速な対策の遂行が必要であることから、調査・設計・施工・管理の一連のプロセスにi-Constructionを導入し、三次元地形モデルを基盤とする取り組みを実施した。i-Constructionを総合的に活用することで、無人化施工による高度な施工プロセスにおいて、安全かつ効率的に迅速な対策工事の実施を図ることができた。