受賞報告

第1回 土木賞

八ッ場ダム本体建設工事

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工事完了
所在地
群馬県吾妻郡長野原町川原湯他
施設管理者
国土交通省関東地方整備局
設計者
日本工営株式会社
施工者
清水・鉄建・IHI 異工種建設工事共同企業体
関係者
大阪砕石エンジニアリング株式会社
株式会社石井組
株式会社エスシー・マシーナリ
株式会社セイア
株式会社南星機械 
株式会社睦商事 
白岩工業株式会社 
東京索道株式会社 
日特建設株式会社
日本基礎技術株式会社 
水谷建設株式
山﨑建設株式会社
大和工機株式会社
神戸鉄工建設株式会社
着工年月
2014年8月21日
竣工年月
2020年3月31日

受賞理由

八ッ場ダムは利根川の支流の吾妻川に建設される堤高116m、堤頂長290.8mの重力式ダムで、洪水調節、流況改善、新規都市用水供給、発電を目的としている。
利根川の治水および首都圏の水資源確保の観点から早期完成が強く望まれていたことから、施工にあたっては①コンクリート打設能力の大幅向上、②打設可能日数の増加、③施工計画の最適化、④ICT技術などによる生産性向上が課題であった。
これらの課題に対して、全面的な施工事例の少なかった巡航RCD工法や、長距離ベルコン・SPTOMの採用、ケーブルクレーン、バッチャープラントなどの増強、軽量バケットの開発などによって打設能力を大幅に向上させるとともに、プレキャストの積極活用による打設休止日数の低減、拡張レア工法への切り替えや養生方法の工夫によって品質を確保した上での冬期打設可能日数の確保も可能とした。加えて、常用洪水吐放流設備の施工計画見直し、GNSSや3次元スキャナーを利用した転圧締固め管理、連続・リアルタイムの骨材粒径判別システムなどにより、トータルで514日相当の工期短縮を実現した。また、ダムでは前例のないレベル2地震動を設計に取り入れ耐震性の向上を図るとともに、工夫を凝らしたインフラツーリズムによりインフラとしてのダムの理解にも貢献した。
試験湛水開始直後の2019年10月に東日本を直撃した台風19号においては7,500万㎥以上の洪水を貯留し、下流域の洪水被害軽減に貢献したことが広く報道された。その際のダムの漏水量は同規模のダムの1/50程度できわめて良好な品質であることも確認された。
数々の施工プロセスの改善による大幅な工程短縮と高い品質確保を実現した本技術は、今後のダム建設においても大いに参考になるとともに、ダムによる治水効果を広く示したことは、土木技術に対する社会的評価の向上に大きく貢献するもので、日建連表彰土木賞に値するものと認められた。

プロジェクト概要

八ッ場ダムは利根川の支流のひとつである吾妻川に建設された多目的ダムである。利根川は群馬県北部から千葉県銚子市までの幹川流路延長322km、流域面積16,840k㎡と日本で最も流域面積の大きい河川であり、流域内人口は約1,279万人に達する。これまで利根川の氾濫によって関東地方は何度も洪水被害を受けており、1947年のカスリーン台風では、死傷者3,520人という被害を及ぼした。八ッ場ダムは、このカスリーン台風による大被害を契機とし利根川上流に築かれたものであり、下流部の洪水被害の軽減を図る治水事業の一環として計画された。堤高116m、堤頂長290.8m、堤体積約100万㎥、総貯水量1億750万㎥の重力式コンクリートダムである。

イメージ 断面 
イメージ プレキャスト監査廊の設置および巡航RCD 打設状況 
イメージ ダム上流側立面
企画・設計・施工のポイント

レベル2地震動*1に対応した設計
2005年3月に国土交通省河川局から「大規模地震に対するダム耐震性能照査指針(案)・同解説」が公開され、レベル2地震に対応する設計が行われるようになった。これまで、レベル2地震動に対応する設計が行われた事例はなく、八ッ場ダムが初めての事例となった。八ッ場ダムでは天端橋梁ピアに隣接する非常用洪水吐ラジアルゲート*2の損傷を考慮し、ピアのダム軸方向の変位を10mm以下に抑えるため、ピアに補強鋼材(突起付きH型鋼)を埋設した上で、コンクリートを高強度配合として所定の機能を確保する設計とした。
*1 レベル2地震動:その構造物が受けるであろう過去、将来にわたって最強と考えられる地震動。想定しうる範囲内で、最大規模の地震を指す。
*2 ラジアルゲート:弧状の扉体を持ち、軸から放射状に扉体を支える腕(脚)が伸びており、軸を中心に扉体が上下するゲート。高さが低く抑えられるという利点があるが、前後方向には厚くなる。

イメージ ピア部の要求性能概念

巡航RCD工法の採用
コンクリート製造・打設設備・骨材製造設備を大型化し、施工事例の少ない巡行RCD工法を取り入れることで、月間最大7万㎥ 打設するなどして工程短縮を実現した。巡行RCD工法は内部RCDコンクリート*3を先行打設し、外部コンクリートを先行打設したRCDコンクリートと型枠の間に打設していく連続的な打設工法であり、従来型に比べコンクリート打設日数の短縮が可能となる。全面的に当該工法を採用した数少ない事例であるとともに、当ダムのように堤内構造物の多いダムにも巡航RCD工法が十分適用可能であることが示された。

*3 RCDコンクリート:RCDとはRoller CompactedConcrete Damの略で、振動ローラで締め固めを行う、超硬練りのダムコンクリートのこと。

イメージ 巡航RCD工法

常用洪水吐放流管の一体引込み
常用洪水吐設備は、当初は堤体上で据付架台を組み立て、その上に放流管・整流板及び基礎材を吊り込んだ上で、堤体上での組み立て・現場溶接等の作業を行う計画であり、その作業のための打設休止期間を設けていた。右図の通り、堤体の上流側に構台を設置、構台上で組立・溶接作業を行い、組立済みの一体ブロックを引き込む計画とすることで、堤体上での作業は72日から11日に削減し、引き込み実施ブロック以外はコンクリート打設作業を継続して、工程短縮を図った。

イメージ 常用洪水吐設備設置手順

プレキャストコンクリートの有効活用
堤内構造物が多く、上下流面の張出し部や勾配変化点も多いため、これらにプレキャストコンクリートを活用し、施工の効率化、安全性の向上を図った。採用箇所は監査廊、エレベータシャフト、常用洪水吐等多岐にわたる。時間を要する型枠・支保工組立作業の削減、高所作業を低減し、作業日数を短縮し合理化を図った。

骨材分級判定システムの開発
骨材には3種類の粒径の粗骨材と細骨材があり、従来はこれを監視カメラで目視で確認して各粒径の骨材貯蔵ビンに振り分けていたため、ヒューマンエラーによる誤投入が懸念されていた。そこで、ベルトコンベア上に3次元レーザースキャナを設置し、輸送される骨材の形状を点群データから分級判定するシステムを開発、現場ではAIを導入して自動判別した。

イメージ プレキャストコンクリート使用箇所位置

全長10kmのベルトコンベアによる運搬
八ッ場ダムのコンクリート用骨材は、原石山の近傍に設置された骨材製造設備から約10kmの距離を運搬する必要があった。当初、計画のダンプトラックによる運搬から、ベルトコンベアによる運搬に変更した。ベルトコンベアは、旧JR吾妻線の軌道跡地を利用したルート選定を行い、周辺環境の改変を最小限に抑えた。

イメージ 骨材運搬ベルトコンベア配置
イメージ 旧JR軌道敷を利用した骨材運搬ベルトコンベア
施工プロセスの特徴

良質な社会資本の効率的創出
計画から70年経った今、八ッ場ダムは供用を迎え、首都圏の上流域を流れる利根川の治水機能を大幅に向上させる社会資本として流域に安全・安心の向上をもたらした。2019年10月1日に開始した試験湛水では、10月12日に関東地方を直撃した台風19号の降雨による7,500万㎥以上の流入を貯留し、下流域の洪水被害の軽減、安全・安心の向上に貢献した。
設計にあたっては、耐久性の向上を図るため、マスコンクリート*4であるダム堤体の温度応力解析に基づくプレヒーティング、断熱養生によるコンクリート温度制御対策を施し、ひび割れの少ないコンクリートとなるよう配慮した。
ダムでは前例のないレベル2地震動に対応した設計を取り入れ、耐震強度を向上させるなど、構造物の性能・機能の向上を図った。
施工中はi-Constructionを推進し、3D測量およびCIMを活用した出来形管理や施工計画、骨材運搬やコンクリート締固めにおける省力化・情報化施工を実施したほか、ダム堤体内構造物の各種プレキャスト化により生産性の向上と共に工程短縮を図った。

施工プロセスの改善
施工段階で品質・耐久性向上を図ることでダムの維持管理費用削減に繋がり、結果としてライフサイクルコストの低減に繋げることができた。
ダム用仮設備の配置は、地形の改変が最小限となるように計画し、自然環境の保全に配慮した。骨材運搬は、ダンプトラック運搬からベルトコンベア運搬に変更することで騒音・振動・大気汚染などの建設工事に伴う公害の防止・CO2排出量削減に努めた。
また、仮設備の色はアースカラーを使用し、施工中の景観の保全にも配慮するなどして環境の維持に取組んだ。施工中に排出される濁水処理のスラッジなどはセメント原料として利用、建設副産物は分別回収し建設副産物の発生量削減・リサイクルに努めた。

*4 マスコンクリート:ダムや橋桁、大きな壁といった大規模な構造物をつくる際に用いられる、構造質量や体積の大きい硬練りのコンクリートのこと。水和熱による温度応力への対応が求められる。